特集 前田万葉枢機卿ってどんな方 ?
2018年5月20日、トマス・アクィナス前田万葉大司教(大阪教区)が、教皇フランシスコにより枢機卿(すうききょう)に親任されました。日本人としては6人目の枢機卿の誕生です。この特集では、新枢機卿のお人柄について紹介します。
そもそも、枢機卿とは
カトリック教会の教皇の最高顧問で、教会全体の職務について教皇を補佐します。
枢機卿は原則として司教の中から教皇が任命します。任期はありません。80歳未満の枢機卿には、教皇選出のコンクラーベの選挙権があります。
13世紀には7名しかいなかった枢機卿は、今回の親任で227名となりました。
枢機卿(カーディナル)は、ラテン語のカルド(蝶番=ちょうつがい)に由来します。教会にとって蝶番のように重要な存在という意味があります。
普段着の枢機卿
南地区のH・・の長女、ゆ・・です。私は、結婚して大阪教区にうつり、今、教区宣教司牧評議会の運営委員をしています。教区宣教司牧評議会は、年に2回、大司教様と各地区代表の司祭・信徒が1名ずつ出席し、大司教様の福音宣教に関する考えなどを分かち合う場となっています。運営委員の私は、年2回の会議に向けた準備のため、1、2ヶ月に1度、大司教様と共に話し合いを行っています。
前田大司教様は、とても温和で、謙虚な方です。大司教様の年頭のメッセージについて、「ここはこうした方がいいんじゃないでしょうか」という委員からの指摘に対して、「あぁ、そのほうがわかりやすいですね」と、素直に聞き入れてくださることもよくあります。
運営委員会の後は、毎回みんなで食事に行きます。大司教様はお酒が大好き、美味しいお魚が大好き(さすが長崎出身!)。会議の後のお楽しみ ♪ です。
お酒を飲みながら聞いた話によれば、晩年は長崎の小さな教会の主任司祭をしつつ、大好きな釣りをしながらのんびり過ごす予定だったとか…昔、船で釣りに出たら方角がわからなくなり、漁師の信徒たちが一晩中船で探して助けに来てくれたとか…大司教様の声かけによって大阪教区の青年のボーリング大会をしたら、大司教様自身がダントツの優勝だったとか…微笑ましいエピソードは数え切れません。
枢機卿になったという連絡を受けたときは「まさに、晴天の霹靂」だったそうです。「なぜ私が?」と何度も思ったけれど、それもまた神様の御業。
大司教様が、いつも私たちに話してくださる言葉があります。
『お言葉ですから、網を降ろしてみましょう』
前田枢機卿の誕生は、日本の教会にとって大きな意味があると思います。私たちも、それぞれの場で、神様の計画のために働いていければと思っています。
枢機卿と俳句
前田万葉枢機卿は、原稿やお説教や講話の要所要所で、自作の俳句を披露することで有名です。ご自身も、「福音を五七五で表現」するとおっしゃっています。枢機卿の『烏賊墨の一筋垂れて冬の弥撒 ー 万葉神父の日々是好日』 ikasumi no hitosuji tarete fuyu no misa という著書は、タイトルからして俳句です。そこには、たくさんの俳句が載っていますが、その中から3句、ご紹介しましょう。
人ごみにナフタリンの香復活祭 hitogomi ni nafutarin no ka fukkatsusai
枢機卿が、カトリック中央協議会事務局長をなさっていた時に、ふるさとの五島列島の教会での復活祭を思い出して詠まれた句です。復活祭ともなると、みな一張羅を着て集まり、ナフタリンの香りがしたそうです。
日曜のミサよりサザエ獲りたしや nitiyou no misa yori sazae toritashiya
ワンパクだった少年時代を思い出して詠んだ句。小学校5年生の夏、悪友二人と日曜のミサをサボって、サザエ獲りに興じたことがあったそうです。
子も親も神父も夏の夜なべかな ko mo oya mo sinpu mo natsu no yonabekana
サザエを舟に満載して、意気揚々と帰ってくると、浜には怖い顔をした神父様が待っていました。罰はお御堂で「めでたし」一万回。夜遅くまでかかりましたが、親も神父様も、夜更けまで付き合ってくれました。罰だったのに、不思議と懐かしい思い出だと振り返られています。
著書には、枢機卿が折々に書かれた文章や講演録、アグネス・チャンとの対談などが収録されています。枢機卿の気取らない人柄に、心温まる一冊です。
前田万葉 著 |
発行 かまくら春秋社 |
ISBN 978-4-7740-0721-2 |
前田大司教の紋章
十字架のようなハトのうしろに
「お言葉ですから、網を降ろしてみましょう」
を象徴する網が描かれている
下のリボンの文字は
「仕えられるためではなく、仕えるために」
と記されている