視点の転換

カトリック平塚教会報 第98号 2013年 12月 24日発行

平塚教会主任司祭 トーマス・テハン

ある朝、私は部屋の中で、ふだん座っている椅子ではなく、もう一つ別の椅子に腰かけてみました。冬の時期、日だまりに座ることで得られる日差しと、その暖かさを有効に活用してみようと思ったからです。静けさの中で一時を楽しんでいると、部屋の見え方がいつもとは異なっており、長い間気づかなかったことに気づき始めました。それは、新たな経験でした。

そこで私は、クリスマスについても同じことをしてみれば、それもまた新たな経験となるのではないかと考えました。思い返してみると、今年の毎日曜日の福音は、ルカによる福音でした。ユダヤ人のために書かれたマタイによる福音と違って、ルカによる福音は、異邦人のために書かれたものです。ルカによる福音の特徴は平易であることですが、それでいて深みに欠けることはありません。
ルカによる福音を読んでいて気付いたことですが、ルカは表現についてとても注意深い人です。ルカによる話のほとんどには導入部分があり、その文脈の中でイエス様はたとえ話を用いるのです。例えば、ファリサイ派や律法学者の人々が、イエス様が罪人や徴税人と食事をしたことに不満をあらわにすると、イエス様は迷える子羊のたとえ話をします。ルカによる福音の最初の部分に目を向けて、ルカがどのように話の導入部分を始めるのか注目してみます。

「わたしたちの間で実現した事柄について、最初から目撃して御言葉のために働いた人々がわたしたちに伝えたとおりに、物語を書き連ねようと、多くの人々がすでに手を着けています。そこで、敬愛するテオフィロさま、わたしもすべての事を初めから詳しく調べていますので、順序正しく書いてあなたに献呈するのがよいと思いました。お受けになった教えが確実なものであることを、よく分かっていただきたいのであります」(ルカ1章1~4節)

この導入の後、洗礼者ヨハネの誕生の予告、受胎告知、マリアのエリザベト訪問へと、ルカは話を続けます。イエス様の誕生の話の前に、ルカは洗礼者ヨハネの誕生の話をします。洗礼者ヨハネの誕生の予告を読むと、神様からの使者、大天使ガブリエルがザカリア、そしてマリアの前に現れたことが紹介されます。大天使ガブリエルはザカリアが祭司の務めを行っている時に現れました。驚くべき出来事が、ごくありふれた日常の中に起きるのです。
神様からの使者ではなく、神様ご自身が私たちの中の一人として馬小屋でお生まれになるという、イエス様のご誕生へ向けて、私たち自身を準備させるための、なんともすばらしい導き方ではないでしょうか。ルカが福音の中で行っていることは、私たちの世の中にある日常を聖なるものにすることです。ルカは、イエス様とその弟子たちの生涯についての話の基礎を築き、彼らが神様から与えられた使命を果たすためにエルサレムへと旅する準備をしているのです。そこには、「神様はすべての中にあり、その存在によってすべてを聖なるものとしてくださる」というメッセージがあるのです。

私たちは、すでに抱いている先入観から自身を解き放ち、もう一度子どもの頃の新鮮な感覚をもって、ルカのようなすばらしい語り部に耳を傾けてみてはどうでしょうか。そのような視点を持つことによって、私たちの中の偉大な神様の存在をあらためて感じることができ、キリストの中で私たち自身が変容することにつながっていくかもしれません。
喜びに満ちたクリスマスとなりますように。

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