すべての人の母マリア

カトリック平塚教会報 第121号 2021年8月15日発行

平塚教会主任司祭 トーマス・テハン

聖母被昇天の祝いにあたって、イエスの愛する弟子、聖ヨハネが伝えるマリアの救いへの参加について、私の気づきを広げることになったいくつかの考えを、皆さんと分かち合いたいと思います。福音書の中で、マリアについて語られた箇所は少ないのですが、ありがたいことに、ルカによる福音には若い日の物語があり、ヨハネによる福音には、カナの婚礼、マリアとヨハネに向けたイエスの最後の言葉があります。
カナの婚礼の祝いは、イエスの公的な生活がはじまった時期であり、十字架でのエピソードは、イエスの生涯における最期の時にあたります。このふたつの場面において、ヨハネは、イエスと母の関係について、また、それが神の救いの計画とどのようにつながるのかについて、独自の見方を示しています。このことは、なぜ私たちが聖母被昇天を祝うのかということと、関係していると思います。
 8月は活力を失う人も多く、新たな考えを思いめぐらすには、ふさわしい時期といえないかもしれません。しかし、ヨハネによるこれらふたつの場面をじっくりと読み込むことで、皆さんの気づきを広げていただきたいと思います。ふたつの場面では、イエスがマリアを、「婦人」(woman)と呼んでいることに気づきます。ヨハネが用いるもうひとつのキーワードは、「時」です。イエスは母に、「わたしの時はまだ来ていません」と言っており、受難の場面では、「人の子が引き渡される時が来た」と言っています。 
最初に、この「婦人」というキーワードを取り上げ、この言葉によってヨハネが伝えたかったことを考えてみましょう。「女」(woman)という言葉は、聖書の最初にある、創世記のアダムとイブの物語の中で用いられています。イブはすべての創造物の母を表しています。そうすると、アダムはすべての創造物の父ということになります。
ヨハネの考えでは、イエスは新しいアダムであり、イエスがマリアを「婦人」と呼ぶことによって、マリアを新たな創造における新しいイブに指名しているのです。カナの婚礼のなかで、マリアが主導権をとり、イエスが「わたしの時はまだ来ていません」と、一歩引いているように見えるのは、そのようなヨハネの見方を示しています。信念を持つマリアは、イエスがこの状況に応えてくれるものと心の中で信じながら、召し使いたちに水がめを用意させていたのです。イエスがこの状況に応えたことは、言うまでもありません。
十字架の場面に目を向けてみると、このイエスの生涯における重大な局面で、イエスはマリアを「婦人」と呼び、マリアを新しいイブに指名して、ヨハネに委ねています。ヨハネはここで、すべての創造物を代表しているのです。イエスの死と復活は、新たな創造を告げ知らせています。私たちはこれまで、マリアを、信じるものの母としてきました。しかし、ヨハネは一歩進んで、マリアのことを新たな創造の母と言っているのだと私は思います。このように考えると、マリアの体と魂が天にあげられたという話は、理にかなっていると言えるでしょう。 
マリアは神から、第二のアダムであるイエスの母として選ばれ、十字架のイエスのもとにおられた時でさえも、生涯愛をもって応えられました。新たな創造のはじまりである、イエスの受難、死、復活により、私たちは神の国をもたらした新たな創造へと誘われています。イエスの受難、死、新しい創造を開始する復活のおかげで、私たちは神の王国をもたらすための新しい創造に加わるよう招かれているのです。受難、死、復活は過去のことではなく、愛や命と同様に、不正、苦しみ、憎しみ、そして絶望がうずまく現代につながっているのです。
願わくは、今回お話ししたいくつかの考え方が、皆さんの気づきを広げ、マリアや神の愛に、さらに一歩近づくことにつながりますように。(訳:M.U)


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