新たな経験

カトリック平塚教会報 第103号 2015年 8月 9日発行

主任司祭 トーマス・テハン

私は火葬のあと、遺骨を骨壷に入れるまで居残ることはめったにありません。私が特別な食事制限をしていることも、その理由のひとつです。ただし、茅ヶ崎のカトリック墓地で埋葬が予定されている場合は例外です。
その遺骨を骨壷に入れる担当者は、遺骨が骨壷に納められたとき、故人はとても背の高い女性だったにちがいないと言っていました。Y.N.さんは、実際背の高い女性でしたが、亡くなる前にはとてもやつれていました。数年に及ぶ病気のためでした。

この数年間、主な祝日の時は結局いつも入院していることを、彼女はとても異常なことだと言っていました。昨年の12月、彼女は戸塚の病院に入院しました。そこで彼女は非常によい治療を受けていました。そのおかげで彼女は寒い冬を乗り切ることができたのです。2ヶ月後、彼女は病院を出ることになりました。彼女は残された日々を自宅のアパートで過ごすことにしたのです。
周囲の人々は、彼女のためにできることはなんでもしてあげていました。そのことを認識しはじめて、彼女にある変化が生じていたことに私は気づきました。点滴を定期的に受けるために必要な病院公認のベッドや装備をアパートに用意するには、周囲の人々の協力が助けとなりました。彼女は食べることができなくなっていたのです。
その頃、平塚教会の人々も多数訪れるようになり、会話もはじまりました。自分の性格を変えない、という彼女の意志は強いものでした。通夜を希望せず、火葬のあとの葬儀に出席してほしい人々も決めていると聞いた時は驚きました。残された人々が彼女にお別れを言う機会も必要だと、私は彼女に伝えました。
病院ではじまっていた動きが、変化をもたらしはじめました。彼女は考えを変え、自分の願いを説明しました。このことで、死への準備は新たな局面を見せはじめました。彼女は、人々にしてほしいことをお願いするようになり、人々がそれに応えてくれることに感謝しました。体がどんどん弱くなるにつれて彼女の心は強くなり、人生の大部分で彼女にとって無縁だった「平和」を経験しているようでした。このプロセスは全て順調に進行したわけではありませんが、困難な状況であるにもかかわらず、新たな局面が開かれたのです。
彼女は、体調が悪化すればまた病院に戻らなければならないと言われていました。そのことがかえって、自分のアパートで死のうという決心を強めさせたのです。彼女に付き添う看護師はキリスト教徒ではありませんが、彼女に心をうたれ、自分の信念について彼女に語りはじめました。その方は彼女に書籍をプレゼントしました。彼女は、徐々にやってくる苦しみや衰えに何かしらの意味を見出していました。

聖週間に、医者は彼女の余命が3週間であることを伝えました。彼女はそれを受け入れ、最後の力を振り絞って大磯の神学生のために作っているストラの仕上げにとりかかりました。その神学生は4月26日に横浜山手教会で助祭に任命される予定でした。彼女はその時まで生きていたいと願い、その望みは叶えられました。彼女の次の目標は、6月16日の80歳の誕生日を迎えることでしたが、残念ながらその願いは実現されませんでした。
聖霊降臨の主日の朝8時に自宅のアパートで亡くなりました。彼女は塗油、ゆるしの秘跡、聖体拝領を受けたのち安らかに永遠の眠りにつきました。平塚、大磯教会、またその他の教会からの信者たちは、簡素で祈りに満ちた通夜、葬儀において、彼女の生涯を讃えました

彼女の死に関わる様々な手続きが終わるまでのプロセスを振り返ると、現在の手続きに改善が必要なことがわかってきます。つまり、故人の親戚ではない者も故人の代理として行動ができるようにするべきです。そこにはたくさんの善良な意志がありますが、法律の文言を主張する官僚主義的な人々も依然としています。
Y.N.さんが残してくれたもの、それは、私たちが共同体として、どうすれば病気の方々や弱い方々に、深く宗教的な基礎をもった総合的なケアをすることができるのかということについて語り、共有しはじめる可能性が生まれたことかもしれません。

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